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札幌高等裁判所 平成9年(ネ)406号 判決 1998年9月30日

呼称

控訴人

氏名又は名称

株式会社マキタ

住所又は居所

北海道帯広市西十五条南四丁目七番一号

代理人弁護士

太田勝久

代理人弁護士

尾崎祐一

代理人弁護士

繁礼子

呼称

被控訴人

氏名又は名称

北海板金工業株式會杜

住所又は居所

北海道札幌市清田区里塚一一〇番地一二

呼称

被控訴人

氏名又は名称

株式会社アサヒ金物

住所又は居所

北海道帯広市西三条南二六丁目四番地

代理人弁護士

田中燈一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨

1  原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。

2  被控訴人北海板金工業株式會社は、原判決書添付別紙二及び同三記載の形状の雪止装置付き屋根板を製造、販売してはならない。

3  被控訴人株式会社アサヒ金物は、原判決書添付別紙三記載の形状の雪止装置付き屋根板を製造、販売してはならない。

4  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金一五〇〇万円及びこれに対する平成八年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  4項につき仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二 当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決書「事実」欄中の「第二 当事者の主張」中、控訴人と被控訴人らに関する部分に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書六頁一行目の「及び周知性」を削り、同二行目の「以下の各事実によれば」を「次のとおり」に、同三行目の「表示として」から同四行目の「できる」までを「表示に該当する」に各改め、同五行目の末尾に続けて「また、商品等表示に該当することと周知性とは次元の異なる事柄である。」を、同末行の次に行をかえて次のとおり各加える。

「(二) 商品の形態が不正競争防止法二条一項一号所定の商品等表示に該当するためには、他の同種の商品と比較して特異であることが必要である。本件屋根板は、ハゼ部分を横葺きにして雪止方法として活用することに新規性があり、新規性を有することは特異であることに他ならない。

仮に、商品の形態が同法同条項号の商品等表示に該当するためには意匠的特徴を有することが要求されるとしても、本件屋根板は屋根自体に雪止機能を持たせるべく開発されたものであり、需要者は雪止めに必要な設備を設置するに際しては、当該雪止装置の機能のみならず施工後の外観も重視しているのであるから、本件屋根板が意匠的特徴がないということはない。」

二  同七頁一行目を次のとおり改める。

「3 周知性

本件屋根板の形態は、次の各事実によれば、需要者の間に広く認識され、周知されるに至ったものということができる。

(一)  市場占有率」

三  同七頁五行目の「(三)」を「(二)」に、同八頁一行目の「(四)」を「(三)」に、同六行目の「3」を「4」に、同一〇行目の「4」を「5」に、同一一頁一行目の「5」を「6]に各改め、同四行目から同七行目まで及び同一二頁二行目の「そして」から同四行目末尾までを各削る。

四  同一三頁六行目の末尾に続けて「商品の形態が商品等表示とされるには、内在的に周知性の要件が必要である。」を加え、同七行目の「同2(一)」を「同2(一)及び(二)」に改め、同八行目の末尾に続けて「需要者の主な関心も雪止機能にあり、販売する側も外観の特異性や美観の故に売っているのではない。」を加え、同九行目を「3 同3(一)は争う。」に、同一〇行目の「2(三)及び(四)」を「3(二)及び(三)」に、同末行の各「3」をいずれも「4」に、同一五頁三行目(二か所)、同四行目、同五行目、同八行目及び同九行目の各「4」をいずれも「5」に、同一六頁八行目の各「5」をいずれも「6」に各改め、同九行目から一〇行目までを削る。

第三 証拠

証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四 当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決書「理由」欄中、控訴人と被控訴人らに関する部分に説示するとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書一九頁五行目の「三九」の次に「ないし四一」を加え、同二〇頁一〇行目の「一八九三軒」を「一〇四三軒」に改め、同二二頁九行目の末尾に続けて「また、控訴人は、平成元年三月ころ以降平成九年一二月に至るまで、十勝毎日新聞に本件屋根板の広告を月二回程度の割合で掲載した。この広告は、左右一九センチメートル、天地六・六又は九・九センチメートルの大きさで、ハゼ部分の図解があるものや、施工例の写真があるもの等がある。控訴人は、平成七年一月から二月までの二か月間、本件屋根板のテレビ・コマーシャルをニニ四本、北海道全地域に放映した。本件屋根板の東北地方における特約店である株式会社北州は、平成六年、本件屋根板の広告を、東北地方の住宅リフォーム雑誌に掲載した。」を加え、同一〇行目の「四の13」の次に「、四二、四三、四六、四七の1、2、四八の3ないし17、調査嘱託の結果」を、同二三頁三行目の「急勾配」の次に「屋根」を各加える。

二  同二四頁一行目の次に行をかえて次のとおり加える。

「(七) 本件屋根板は、放映の内容は詳らかでないが、平成五年から同六年にかけて札幌テレビ(STV)のワイドショー番組の中でも紹介されたことがあった。(甲四九、五〇)」

三  同二四頁四行目から同二七頁七行目までを次のとおり改める。

「1 不正競争防止法二条一項一号にいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの、すなわち商品の出所を表示するもの一般を指す。また、同法同条項号は、その商品等表示が「需要者の間に広く認識されていること」を要件として規定している。

商品の形態は、商品の機能上、技術上の理由から、又は商品の美観や印象を高め、あるいは個性を持たせる等の理由から、決定又は選択されるものであり、商品の出所を表示することを意図したものではないし、本来は出所を表示する機能を有するものではない。しかし、場合によっては、商品の形態自体によって、特定の者の商品であることを認識することができるようになることがある。このような場合には、商品の形態自体が、商品の出所を表示するものとして、同法同条項号の「商品等表示」に該当すると解される。

このように、商品の形態自体が商品の出所を表示しているというためには、当該商品の形態が他の商品と比べて独自の意匠的特徴を有し、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを認識することができる程度の識別力を備えたものであり、かつ、当該商品の形態が長期間特定の営業主体の商品に排他的に使用され、又は、当該商品の形態が短期間でも強力に宣伝広告される等により、当該商品の形態自体が特定の営業主体の商品であることを示すものとして需要者の間に広く認識されているものであること(周知表示性)が必要であると解すべきである。

2 そこで、本件屋根板について検討する。

本件屋根板は、前示のとおり、その接続部分(ハゼ)を横葺きとし、屋根に垂直になる高さ四五ミリメートルの雪止突起とした点に特徴がある。しかし、右の点は、雪止めの機能、技術としての特徴ということはできても、本件屋根板の形態自体が他の商品と比べて独自の意匠的特徴を有するといえるかどうかは疑問である。

また、前示のとおり、本件屋根板は、平成元年ころに開発され、その後、北海道内及び東北地方において新聞、広報誌等により報道され、あるいは控訴人らが新聞、雑誌、テレビ・コマーシャルを通じて宣伝広告をしてきたものである。しかし、前記認定事実によれば、その販売が北海道、東北地方において軌道に乗り始めたのは平成七年以降であり、それまでの販売数自体は多いとはいえない。本件屋根板に関する報道は、将来性のある新規事業としての紹介、屋根からの落雪防止方法の有力な技術としての紹介が中心であり、宣伝広告も雪止めの機能を強調したものである。そうすると、本件屋根板の形態が長期間特定の営業主体の商品に排他的に使用され、又は、その形態が短期間でも強力に宣伝広告されたとまではいい難い。本件屋根板の需要者も、本件屋根板の形状、外観等の形態ではなく、雪止機能や技術に関心を持ち、それが控訴人に対する問い合わせや購入の動機となっているものとうかがえる。

そうすると、本件屋根板の形態が、他の商品と比べて独自の意匠的特徴を有し、かつ、控訴人の商品であることを示すものとして広く認識されているとまでは認めることができず、本件屋根板の形態によって控訴人の商品であることを認識することができるようになったということはできない。

3 したがって、本件屋根板の形態は、不正競争防止法一条一項一号にいう「商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」に該当するとは認められないから、控訴人の請求は認めることができない。」

第五 結論

よって、原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一〇年七月一〇日)

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 竹江禎子 裁判官 中西茂)

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